芯の材料によるラバー刀の違いについて

実写版るろうに剣心の撮影の際に、ラバー刀という新しい日本刀の小道具が考案されました。

ラバー刀は、剛直な芯をスポンジで覆った構造をしており、従来使用されてきた竹光に比べて、格段に殺陣の安全性を向上させることができます。

本記事では、芯の素材によってラバー刀にどのような違いが出るのか、調べてみました。

芯の材料の候補

ここでは、丸棒が手に入りやすい6つの材料について、比較を行います。価格は、Amazonで売られている製品を参照します。

木材

ラミンという木を例に考えます。

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アルミニウム

一般的に、金属材料は比重が大きいので、比較的軽いものとして、アルミニウムを取り上げます。

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ポリエチレン

枝分かれ構造の少ない高密度ポリエチレン(HDPE)を想定しています。

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ABS樹脂

アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの共重合体です。

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アクリル

ポリメタクリル酸メチル(PMMA)とも呼ばれる樹脂です。

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グラスファイバー

ガラスの繊維で補強された樹脂材料です。初めて考案されたラバー刀の芯材として、実際に使われました。

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カーボンファイバー

母材をエポキシ樹脂とした炭素繊維強化プラスチック(CFRP)という材料について考えます。

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材料の比較

コスト

直径が5 mmの丸棒について、それぞれの価格(2025年7月現在)は、次のとおりです。

長さ / mm本数 / pcs税込価格 / 円
木材900507040
アルミニウム995102530
ポリエチレン10001875
ABS樹脂1000101753
アクリル100021133
グラスファイバー10001014202
カーボンファイバー10001016416

長さ1000 mmの丸棒1本あたりの金額(単位: 円)に換算すると、次のようになります。

木材156
アルミニウム254
ポリエチレン875
ABS樹脂175.3
アクリル566.5
グラスファイバー1420.2
カーボンファイバー1641.6

打刀のラバー刀には70 cmの長さが必要なので、原材料費には最大1000円程度の差が生じることになります。

経年劣化

日光の当たらない屋内に保管したとして、寿命を迎えるまでの年数は、次のとおりです。

木材20~50年
アルミニウム100年以上
ポリエチレン50~100年
ABS樹脂20~50年
アクリル50~100年
グラスファイバー50~100年
カーボンファイバー50~100年

これらの寿命はとても長いので、多くの場合はウレタンスポンジが先に劣化するか、物理的な衝撃によって壊れるかで使えなくなると考えられます。

衝撃の大きさ

これ以降の検証は、AIの力を借りて行います。計算に用いたパラメータは、次のとおりです。

支点から作用点までの長さ65 cm
先端から作用点までの長さ5.0 cm
スポンジの圧縮荷重(一定)20 kPa
スポンジの最大圧縮量60%
作用点におけるスポンジの厚み10 cm
スポンジの総重量3.0 g
接触面積5.0 cm²
振り下ろし速度12 m/s
衝撃時間8 ms
腕の静止時間100 ms

衝撃に寄与する質量と、それによる衝撃力、圧力を密度から計算すると、以下のようになりました。

密度 / g cm^-3丸棒の質量 / g衝撃力 / N圧力 / kPa
木材0.658.31633
アルミニウム2.73456110
ポリエチレン0.96122244
ABS樹脂1.1142550
アクリル1.2152754
グラスファイバー1.8223877
カーボンファイバー1.7223673

AIによると、痛覚の閾値は人体の部位によって異なりますが、脇腹で60 kPa程度、腕で80 kPa程度、太ももで100 kPa程度であり、グラスファイバーとカーボンファイバーでは軽い痛み、アルミニウムでは明らかな痛みが生じるとのことです。

部位によって軽度の打撲になる可能性は否定できませんが、少なくとも竹光よりはかなり安全であると言えます。

※丸棒が折れたり曲がったりすることによるエネルギー損失は、考慮されていません。弾性率の違いから生じる衝撃時間の差もないものと考えています。

※衝撃力は、{2×質量×(運動エネルギー-スポンジに吸収されたエネルギー)}^0.5/衝撃時間として算出しました。

しなりやすさ

しなりやすいほど、日本刀としての美観が損なわれるため、使いにくくなります。

ここでは、片持ち梁モデルにおける静的な曲げ変形について、曲がりやすさを比較します。

たわみの大きさδは、物質の弾性率(厳密には、ヤング率E)に反比例します。

先端の剣速12 m/sで振ったとき、それぞれの物質のヤング率とたわみの大きさは、次のようになります。

ヤング率 / GPaたわみ / mm
木材1293
アルミニウム6953
ポリエチレン1.01500
ABS樹脂2.5670
アクリル1.21500
グラスファイバー7037
カーボンファイバー15016

圧倒的にカーボンファイバーがたわみにくく、本物の日本刀に見えやすいと言えます。ポリエチレンやABS、アクリルを使うのは、現実的ではありません。

※丸棒の破壊は考えておらず、無限に変形できるものと仮定しています。

※断面二次モーメントI=3.1×10^-11 m^4として、δ=11mvL^3/120EIΔtで計算しています。ここで、F=10 N、v=12 m/s、L=0.65 m、Δt=0.1 s、mは質量、Eはヤング率です。

耐久性

棒状の物体が破損するとき、折れるパターン(脆性破壊)と曲がるパターン(塑性変形)の2種類の機構があります。

どちらの機構が起こりやすいのかは材料に依存しますが、ここではどちらかの破壊が起こり始める応力の大きさと力の大きさを比較します。

静的負荷と衝撃を単純比較するのは、破壊可能性の評価方法として適切ではないため、ここでは静的な強度の3倍の圧力がかかったときに破壊が起こるものと仮定します。

破壊様式強度 / MPa最大衝撃力 / N剣速12 m/s衝撃力 / N結果
木材脆性804.916折れる
アルミニウム塑性2701756曲がる
ポリエチレン塑性251.522曲がる
ABS樹脂塑性452.825曲がる
アクリル脆性704.327折れる
グラスファイバー脆性7004338壊れない
カーボンファイバー脆性15009236壊れない

カーボンファイバーがもっとも適していると言えますが、この計算結果はカーボンの芯が絶対に折れないことを保証するものではありません。

折れた芯が刺さって怪我をする可能性があります。弊社では、芯の根元にガラス繊維テープを巻いて補強するなどの対策を講じていますが、使用する際は十分留意してください。

※σ=Flr/Iの応力σに強度を代入することで最大負荷F_maxを求め、その3倍を最大衝撃力としています。ここで、l=60 cm、r=2.5 mmです。

ラバー刀の芯に適した材料の考察

コストを考えない場合、安全性やリアリティの観点から、ラバー刀にもっとも適しているのは、カーボンファイバーであると考えられます。実際、弊社ラバー刀の芯には、カーボンファイバーを使用しています。

ただし、本物の日本刀でも言われるように、折れずに曲がるほうが直しやすいというメリットがあります。あらかじめ芯を曲げておけば、日本刀特有の反りを再現することも可能です。

その上、残留応力が衝撃を打ち消す方向にはたらけば、衝撃に強いラバー刀ができる可能性もあります。ただしその場合は、峰打ちの強度が通常より弱くなるでしょう。

演劇などミスが許されない場面においても、折れるよりは曲がったほうがごまかしがきくので、衝撃が大きくなったとしても、アルミニウムのほうが適しているかもしれません。その場合は、なるべく芯を太くして、剣速を遅くする必要があります。

まとめ

今回は、芯の材料によって、ラバー刀にどのような違いが出るのかを考察しました。

今後、ラバー刀を自作したり購入したりする場合は、ぜひとも参考にしてください!

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